「スマートホームの世界標準規格」として2022年10月に登場した「Matter(マター)」。
Amazon、Google、Appleといった米国の巨大テック企業をはじめ、現在は世界中の800社以上が参画するConnectivity Standards Alliance(CSA)で策定されているこの規格は、従来のスマートホームやアプリ管理の概念を変える新しい発想の規格として注目を浴びています。
発表から3年経った2025年現在も進化を続け、私たちの暮らしにおける「実用的なインフラ」としての期待を背負って日々進化しています。

引用:CSA(Promoters)
発表当初は、対応製品や範囲も限定的でしたが、半年ごとのアップデートで対応製品の幅が広がり、スマートホームの有名ブランドの対応製品も市場に増えてきており、これからの対応製品の拡大に期待がかかっています。
本記事では、2017年に日本でスマートスピーカーが発売された初期から現在にわたりスマートホーム市場をチェックしてきた筆者の視点から、Matterの基礎知識、ユーザーにとっての意義、そして安定性を重視するユーザーに向けて、スマートホーム製品を選ぶ新基準をお伝えします。
対応製品については、以下の記事でも一部取り上げています。実際に利用した感想もまとめているため、参考にしてください。
スマート家電のおすすめ14選|スマートホーム化で暮らしが便利になった!
そもそも「Matter」とは何か?
Matterとは、Connectivity Standards Alliance (CSA) が策定したIoTの世界標準規格で、「異なるメーカーやプラットフォーム間で、IoT機器がシームレスに会話するための共通言語」のようなものです。
最初に、スマートホーム市場の歴史的な経緯も含め、Matterの基礎知識とその意義を詳しく解説します。
「分断」されていたスマートホーム市場
Matterが登場する以前、スマートホーム市場は分断の歴史にありました。
どういうことかというと、基本的にそのメーカーのアプリでしか使えない、ということです。
スマートスピーカーやスマートディスプレイと他メーカーのデバイスを連携させて使う場合も、「この電球はAmazon Alexaとは連携できるが、AppleのHomeKit(Siri)には対応していない」「A社のセンサーを使うにはA社のアプリが必要で、B社の照明とは連携できない」といった状況が常態化していました。
当然と言えば当然なのですが、これは、ユーザーに対して「どの陣営(AIアシスタント)についていくか」という選択を迫るものであり、普及の大きな足かせとなっていました。
Matterがもたらす「つながる」世界
Matterは、インターネットプロトコル(IP)をベースとした共通規格です。 TCP/IPモデルにおける「アプリケーション層」を共通化することで、Matterのロゴがついた対応製品であれば、メーカーの壁を越えて、Amazon、Google、Appleその他デバイスを含め、あらゆるプラットフォームから操作が可能になります。

Connectivity Standards Allianceが公式でも謳っているMatterのメリットがこちらです。
【Matter導入で変わること(メリット)】
- 設定の簡略化: 付属のQRコードをスマホで読み込むだけで、機器のセットアップが可能になります。
- 製品選びの悩み解消: 「自宅のスマートスピーカーに対応しているか?」などとデバイスとその対応状況を確認する必要がなくなり、「Matterロゴ」があるかを見るだけで済みます。
- ローカル接続による応答速度:宅内のネットワーク内で通信が完結する製品(後述)もあるため、Wi-Fiの死活問題を避けられ、反応するまでのラグも短縮されます。
- 複数のアプリ間連携:スマートスピーカー以外のMatter対応デバイスも横連携できるようになります。
ちなみに、2つめの相互運用性に関しては、製品を作るメーカーにもメリットがあります。
自社のデバイスを音声操作するためのプラットフォームを考えるときに、Amazon(Amazon Echo)、Google(Google Nest)、Apple(HomePod)のすべてで使えるようにするには、それぞれの認証を取得しなければいけない手間とコストが発生します。
Matter対応にさえすれば、これら3つのプラットフォームで使えるので、メーカーの負担も少なく済むようになります。
Matter規格の中では「マルチアドミン」と言われる機能で、一つのデバイスを複数のプラットフォーム(AlexaアプリでもGoogleHomeアプリでもiPhoneのHomeアプリでも)から同時に操作できる仕組みです。
例えば、家族で使っているスマホの機種がバラバラでもOKです。
- お父さん:iPhoneの「ホーム」アプリで「おやすみ」と言って電気を消す。
- お母さん:Androidスマホから電気の状態を確認する。
- 子供たち:リビングのAmazon Echo(Alexa)に「電気つけて」と頼む。
これらすべてが、1つの電球に対して同時に行えます。
また、スマホをiPhoneからAndroidに機種変更した場合、新たに各アプリを入れなおして設定する必要がなく、新しいスマホを新たな管理者として追加すればそのまま使えるというイメージです。
なお、ネットワークにつながる家電やデバイスでよく不安に思われるのがセキュリティだと思いますが、Matterは、面倒な設定なしで、金融機関レベルの安全性が担保されています。
Wi-Fiなどで操作ができるデバイス類ですが、通信はすべて強力に暗号化されています。
また、クラウド(インターネット)に頼らず家の中だけで通信が完結するため、生活パターンなどのプライバシー情報が外部に漏れにくい設計になっています。
製品自体にも製造時に設定されたデジタル証明書があり、これをもとに設定するのと、設定には製品ごとの固有のQRコードや製品コードを読み込む必要があるため、外部からのハッキングなどの心配もありません。
ちなみに、Matterはスマートホームデバイス(スマートスピーカー、スマートリモコン、スマート照明、ロボット掃除機、スマートロック、スマートセンサー類、スマートカメラなど)だけでなく、テレビやエアコン、洗濯機や冷蔵庫のような家電や、玄関の鍵(建具としての)、ユニットバス(自動湯はり)やコンロ、オーブン、レンジフード、給湯器や床暖房、太陽光パネルや蓄電池などのエネルギーマネジメント機器などの住宅設備もサポートしています。
日本では、まだまだ一般的になりつつあるのは給湯器リモコン程度ですが、インターネットにつながる住宅設備は、海外では当たり前になってきていて、家全体がスマホで管理できるようになってきています。
しかし、日本の住宅設備メーカーであるPanasonicやLIXIL、美和ロックや、最近ではYKK APやTOTOもConnectivity Standards Allianceに参画しているため、日本の住宅設備のスマート化、Matter対応も動き始めているので期待したいですね。
Matterについて、わかりやすく解説しているnote記事をご紹介しますので、詳しく知りたい方は是非参考にご覧ください。
Connectivity Standards Alliance(CSA)の日本支部の代表を務めているX-HEMISTRY新貝氏のMatterに関するまとめnoteです。
Matterは「Appleユーザー」にとって救世主?
Matterの恩恵を最も強く受けるのは、実はiPhoneを利用しているAppleユーザーです。
これまでスマートホーム市場において、Apple製品(HomeKit)は「Amazon Alexa」や「Google Home」に比べて対応製品が少なく、導入のハードルが高いとされてきました。その背景を解説します。
「MFi認証」と「専用チップ」の高い壁
Matterが登場するまで、メーカーが自社製品をAppleの「HomeKit」に対応させるには、高いハードルが存在しました。
- MFi認証の取得: Appleが定める厳格な品質基準(Made for iPhone/iPad)をクリアする必要がある。
- 専用チップの搭載: HomeKitの認定を受けた認証チップを製品に組み込む必要がある(※初期要件)。
これらはメーカーにとって大きなコストと開発負担となります。その結果、「AmazonやGoogleには対応させるが、コストのかかるHomeKit対応は見送り(またはSiriショートカットのみ対応)」という判断をしているであろうメーカーが多く存在しました。
実際、過去には「HomeKit対応版」と「通常版」を分けて販売せざるを得なかった製品(DanalockやSwitchBotのスマートプラグなど)もありました。
「Siriショートカット」の煩雑さ
HomeKit非対応製品をiPhoneから操作しようとすると、Matterが登場する前までは「Siriショートカット」機能を駆使する必要がありました。


これは「『電気をつけて』と言ったら、専用アプリのこのボタンを押す」という命令を、ユーザー自身が一つひとつ手動で設定するものです。
設定が面倒なうえに、Apple純正の「ホームアプリ」上で一元管理することはできませんでした。
課題の一例
- iPhone/iPadのSiriから家電操作ができない(サイドボタンやHey Siriの呼びかけから家電を呼び出せない)
- AirPodsからスマートホーム家電を操作できない(Siriではないため)
- Apple Watchから家電を操作するのに、機器毎に個別アプリのインストールが必要
- Macのホームアプリから使えない
- Apple TVから直接家電を制御できない
※iPhoneユーザーが、HomeKit(Siri)ではなく、アレクサやGoogleアシスタントを使うとなった場合の課題です。
Matterが取り払った「壁」
Matterは、この状況を一変させました。 Matterは共通規格であるため、Matterの認証さえ通せば、Apple HomeKitに対応できるようになったのです。
また、iOS 16以降のiPhoneはOSレベルでMatterに完全対応しており、iPhone自体が「Matterコントローラー」の役割を果たします。(ちなみに、GoogleもプロモーターとしてMatterに取り組んでおり、AndroidスマホもMatter対応)
これにより、以下のことが実現できます。
- 純正「ホームアプリ」への一元化: メーカーごとのバラバラなアプリを開く必要がなくなり、すべてのMatter対応機器をiPhone標準の「ホームアプリ」に登録・操作できます。
- Siriでのネイティブ操作: 面倒なショートカット設定をせずとも、登録した瞬間から「Hey Siri」が通用します。
特に日本はiPhoneのシェアが非常に高い国です。
これまでは「iPhoneを使っているがゆえに、安価で多様なスマートホーム製品が使えない」というジレンマがありましたが、Matterによってその制約は完全になくなりました。
iPhoneホームアプリ
また、iPhoneユーザーは、Androidユーザーと異なり、iPhone標準の「ホームアプリ」で簡単にスマートホームの操作ができるようになっています。iPhoneユーザーでも意外と知られていないのですが、これがMatterやスマートホームの相性がよいのです。
このアプリはHomePodはもちろん、AppleTVもコントロールできますし、アクセサリ(各社のスマートホームデバイス)もMatter設定でこのアプリにまとめることができます。
もちろん、セキュリティもしっかりしていますし、複数のアクセサリ(デバイス)を連携させたオートメーションも作ることが可能です。


ホームアプリについてわかりやすく解説している記事も参考にしてみてください。
Matterを構成する「3つの役割」
Matterシステムを正しく理解し、適切な製品を選ぶためには、以下の3つの役割を整理する必要があります。
① Matterコントローラー(司令塔)
スマートホームの「脳」となる存在です。 ユーザーからの命令を受け取り、適切なデバイスへ指示を出します。また、セキュリティの管理や機器の登録も担います。
- 主な製品:Apple HomePod、Apple TV、Amazon Echoシリーズ、Google Nest Hub、Aqara Hub M3など。
② Matterデバイス(エンドデバイス)
司令塔からの命令を実行する「手足」となる機器です。Matterネットワークに直接参加します。
- 主な製品:Matter対応の照明、プラグ、スイッチ、最新のロボット掃除機など。
③ Matterブリッジ(通訳者)
通常、赤外線リモコンで動くエアコンや照明などの「Matter非対応」の既存家電をスマートホーム化するには、スマートリモコン等のハブデバイスが必要です。
このスマートリモコン等が「Matterブリッジ機能」に対応することで、それらが中継機となり、本来Matterに対応していない配下の家電やセンサーを、擬似的にMatterネットワークに参加させることができるようになります。
- 主な製品:SwitchBotハブ2、SwitchBotハブミニ、Philips Hueブリッジ
各構成の関係性は、以下のmiDenさんのYouTubeチャンネルでわかりやすく解説されています。こちらも合わせてぜひチェックされてみてください。
日本で一番Matterに力を入れているメーカーAqaraからもMatterの解説動画が出ています。
Connectivity Standards Alliance(CSA)の日本支部の代表を務めているX-HEMISTRY新貝氏が解説している動画も参考にしてみてください。
日本で代表的なMatter対応スマートホーム製品
現在、日本で入手しやすいMatter対応ブランドとして「SwitchBot」と「Aqara」が挙げられます。両社とも素晴らしい製品を展開していますが、技術的なアプローチ(通信方式)が大きく異なります。
SwitchBot: 「ブリッジ」による既存環境のアップデート

SwitchBotの最新ハブ(ハブ2 / ハブ3)は、優秀な「Matterブリッジ」機能を搭載しています。 これにより、本来Matter非対応である「SwitchBot カーテン」や「ボット(指ロボット)」、そして赤外線リモコン家電をMatter環境に接続させることができます。
- 通信の特徴(スター型): 主にBluetoothやWi-Fiを使用して、ハブと各デバイスが1対1で通信します。
- 注意点: デバイスがハブと直接通信する必要があるため、壁を隔てたり距離が離れたりすると接続が切れやすくなります。また、Wi-Fi機器が増えるとルーターに負荷がかかり、「反応しない」「オフラインになる」など不安定になることもあります。また、Threadメッシュネットワークには対応していません。
参考:SwitchBot公式サイトのMatter解説ページhttps://www.switchbot.jp/pages/switchbot-matter?srsltid=AfmBOorxwimvB4gFIiciB2Q8JRfyNauK73NoZx3bZoZMWXE92Ta8Z5qn
Aqara: 「Thread/Zigbee」によるインフラ構築

Aqaraは、2024年2月に日本に上陸したスマートホームメーカーです。日本では新しいメーカーという印象ですが、スマートホーム先進国の北米やヨーロッパをはじめ、アジア圏も含め、世界170以上の国と地域で製品を展開しており、1,200万人以上のユーザーがいるグローバルスマートホームメーカーです。
より堅牢なネットワーク構築を前提としたアプローチを採っており、Matterの真価を発揮する「Thread(スレッド)」や「Zigbee」という通信規格を採用しています。
- 通信の特徴(メッシュ型): デバイス同士が網の目のように繋がる「メッシュネットワーク(多対多通信)」を形成します。
- メリット: Aqaraのデバイスは、それぞれが中継局の役割を果たします。ハブから遠い部屋にあるセンサーでも、途中の電球やスイッチを経由して信号を届けることができます。 もし一つのルートが遮断されても、自動的に別のルートを探して通信を継続(自己修復)するため、接続性が極めて高く、操作のレスポンスも高速です。
特にAqara Hub M3は、単体で「Matterコントローラー」および「Threadボーダールーター」の機能を備えています。 これにより、AppleやGoogleのハブ製品を持っていなくても、Aqara Hub M3さえあれば、他社製のMatterデバイスを管理・制御することが可能です。
「音声操作はあまり使わない」「特定のメーカープラットフォームに依存しすぎたくない」「好きなメーカーのものを好きなように組み合わせて使いたい」というユーザーにとって、安価で高性能な「独立した司令塔」として機能する点は、Aqaraの大きな強みです。
スマートホームは「24時間365日、常に待機状態」であることが前提です。一瞬の通信断絶がストレスになる環境において、この安定性は非常に重要な観点です。
なお、AqaraはMatterに完全準拠する方針を立てており、他社製MatterデバイスをAqara対応することや、Aqaraデバイスの独自機能もできる限りMatter経由で使えるようにする方針とのことで、2025年現在、以下のデバイスの種類をMatter対応しています。(日本未発売のカテゴリも含む)

そのため、今後Matter関連では特に注目すべきメーカーです。
Matterのデメリット
ここまで、Matterの良い点・メリットをまとめてきましたが、最後にユーザーへのデメリットも解説します。
メーカー独自の「高度な機能」が使えないことがある
Matterは「みんなが共通で使える機能」を標準化しています。そのため、メーカー独自の高度な機能は、Matter経由では使えないことがあります。
具体的には、スマート照明の「ON/OFF」や「明るさ調整」はどのアプリでもできますが、Philips Hue独自の「キャンドルモード」のような特殊な照明効果(シーン)や、スマートプラグの消費電力グラフなどは、そのメーカーの専用アプリでないと使えない機能があります。
「司令塔(ハブ)」が必ず必要になる
Wi-Fi接続の安いスマート家電なら、スマホさえあれば使えました。しかし、Matterを使うには家に必ず「Matterコントローラー(ハブ)」となるスマートスピーカー(HomePodやGoogle Nest Hub、Amazon Echoシリーズなど)が必要です。
Alexaアプリがあれば音声操作ができますが、アプリではなく機器同士の通信ができないといけないので、スマートスピーカーやハブなどのデバイスが必要です。
既存の格安製品より少し値段が高い
Matterに対応するには、高いセキュリティ基準を満たし、高性能なチップを搭載する必要があります。 そのため、Matter対応製品は価格が少し割高になる傾向があります。
まとめ:どんな人におすすめ?
- メリットは「自由度・速度・安定性」
- デメリットは「独自機能の制限・初期コスト」
「家族で違うスマホを使っている」「家電やスマートホームデバイスのメーカーは好きなものを好きなように使いたい」という方には、デメリットを補って余りあるメリットがあります。
これからスマートホームを始めるなら、Matter対応製品を選ぶのが正解です。
現状、日本で販売されているMatter対応製品は、以下の記事に詳しく解説されています。当協会の参画企業でもあるスマートホームのプロ集団 X-HEMISTRYのCEOで、Connectivity Standards Alliance日本支部代表 新貝氏が纏めている内容で参考になる内容です。
日本で販売されているMatter対応製品一覧 – β版(2025/10末時点)


