2026年2月10日、オンラインイベント「次世代住宅シンポジウム2026」が開催されました。本シンポジウムは、本年度で9年目を迎えた国土交通省の補助事業「次世代住宅プロジェクト」の最新動向を解説するもので、本年度より本プロジェクトの評価事務局として関わる当協会事務局長の長島もパネルディスカッションに登壇いたしました。
本記事では、国土交通省による最新の住宅政策の解説から、スマートホーム居住者のリアルな実態調査、そして事務局によるパネルディスカッションまで、全容をレポートします。補助事業の申請者となる企業様(住宅事業者や関連メーカー、自治体担当者の皆様)は、特に、この補助事業を活用いただけたらと思います。
第1部:2026年度の住宅政策と予算の概要
~「住生活基本計画」改定と次世代住宅の役割~
基調講演には、国土交通省 住宅局 住宅生産課 企画専門官の山口義敬氏が登壇し、「住宅政策と予算の概要」と題し、令和8年度(2026年度)に向けた政策の方向性が語られました。
「量」から「質」、そして「市場機能の進化」へ

日本の住宅政策は戦後の「量の確保」から始まり、高度経済成長期を経て「質の向上」へとシフトしています。その重要な指針が「住生活基本計画」です。山口氏は、現在進められている住生活基本計画の見直し(改定)について触れ、新たな計画の柱として以下の2点を強調しました。
1. 市場機能の進化による住宅ストックの価値の最大化
2. 人生100年時代の住生活基盤の再構築
特に、2における基盤には、スマートホームやIoT要素も含まれており、単身高齢者の増加を見据え、個人の住まいだけでなく、医療・福祉との連携や地域コミュニティとの繋がりを含めた「居住環境」の再構築が求められています。
「次世代住宅プロジェクト」はイノベーションの実験場

住宅政策において重要なことは、規制や制度改正といった「強制力のある手法」だけでなく、補助金や税制優遇といった「誘導的な手法」でもあるという重要性を説き、その中で「次世代住宅プロジェクト」は、社会課題を解決するための技術やアイデアを社会実装するための「実験場」としての役割を担っていると位置づけています。
図に示しているように、 「社会課題→規制・制約→技術によるブレイクスルー→具現化→新たな価値創造」というサイクルを回し、次世代のスタンダードを生み出すことが本プロジェクトの真の目的です。

次世代住宅プロジェクトが掲げている6つの社会課題だけでなく、複合的に組み合わせたり、新たな視点での自由提案など、積極的にアイデアをもってこの補助事業の活用を国交省も期待されています。
第2部:スマートホーム居住者の実態調査
~「便利さ」の裏にある「不安」をどう解消するか~

続いて、日経BPコンサルティングの藤井かずほ氏より、「次世代住宅に関する意識調査」の結果報告が行われました。実際にスマートホーム住宅に住んでいる層を対象とした調査データです。
導入してわかった「地味だけど絶大なメリット」


調査結果によると、IoT機器やシステムを導入した居住者の約7割が「生活に変化があった」と回答しています。具体的に評価されたポイントは、派手な機能よりも日常の些細なストレス解消でした。
- 「雨の日、車の中からスマホで玄関を解錠でき、濡れずに家に入れた」
- 「冷蔵庫の中身がスマホで見えるので、買い忘れやフードロスが減った」
- 「外出先からエアコンを操作し、帰宅時に快適な室温になっている」
- 「鍵の閉め忘れを外出先から確認・施錠できる」
- 「子供や高齢の親の帰宅通知が届く」
このように、利便性やQOL(生活の質)の向上は体感しやすく、満足度が高いことが明らかになりました。
普及を阻む「3つの壁」

一方で、普及に向けた課題も浮き彫りになりました。導入していない層、あるいは導入後の不満点として以下の3点が挙げられています。
- コストへの不安 初期費用だけでなく、月額利用料や将来のメンテナンス費用、機器の買い替え費用に対する懸念が根強くあります。
- 設定・運用の複雑さ 「メーカーごとにアプリがバラバラで面倒」「Wi-Fiの設定が難しい」「不具合が起きた時に、ネット回線の問題なのか機器の問題なのか切り分けられない」といった声が多く聞かれました。
- 継続性とセキュリティ 「サービスが終了したら使えなくなるのでは」「ハッキングや個人情報漏洩が怖い」といった心理的なハードルも存在します。
藤井氏は、「機器やアプリを繋げて一元管理すること」「通信トラブルや故障を前提とした安心設計」「省エネ効果の見える化と制御の一体提案」が、今後の市場拡大の鍵になると分析しました。
第3部:パネルディスカッション
~IoTだけではない!「次世代住宅」の定義が変わった~
プログラムの最後は、国土交通省、学識経験者、業界団体、事務局によるパネルディスカッション。「新たな『次世代住宅プロジェクト』の視点と2026年度事業の概要」をテーマに、これからの住宅ビジネスのヒントが語り合われました。
- 一色 正男 氏(神奈川工科大学 研究推進機構 特命教授)
- 山口 義敬 氏(国土交通省 住宅局 住宅生産課 企画専門官)
- 長島 功 氏(LIVING TECH協会 事務局長)
- 安達 功氏、野中 賢氏、村島 正彦氏(日経BP 総合研究所)
「次世代住宅」が目指すの本当の意味とは?

モデレーターの安達氏は、「次世代住宅プロジェクトは9年目を迎え、その概念は大きく拡張している」と切り出しました。これまでは「IoT×新築×持ち家」が主流でしたが、現在は以下の3軸で領域が拡大しています。
- 技術: 最先端のIoTだけでなく、既存技術の組み合わせや設計思想の工夫も対象。
- 目的: 単なる利便性向上だけでなく、社会課題・地域課題の解決や新しいライフスタイルの提案へ。
- 対象: 新築だけでなく、リノベーションや賃貸住宅、既存ストック活用へ。
山口氏は、「次世代とは『新技術』という意味だけでなく、『次の世代に残すべきもの』という意味もある。必ずしもハイテクである必要はなく、アナログな手法であっても、社会課題を解決し、新しい価値を創造するブレイクスルーであれば支援対象になり得る」と力説しました。
スマートホームは贅沢品ではない。課題を解決してくれる効果的なソリューション

スマートホーム業界では、各社が試行錯誤、切磋琢磨しながら日々サービスが進化しています。 次世代住宅プロジェクトの6つのテーマを複合的に解決できるソリューションでもあり、第2部で藤井氏から報告されたスマートホームの課題も解決してくれるソリューションもあります。

例えば、令和5年度(2023年度)に採択されている三菱地所のHOMETACTは、家事負担の軽減や健康管理支援、防犯対策やコミュニティの維持形成など複数の課題に対応可能です。さらに、ユーザーが抱える設定不安も、365日対応可能なサポートサービスが付帯しているので、苦手なユーザーでも安心ですし、住宅実装する側の事業者にとっても安心して外注できる用になっています。B2Bスマートホームの提供事業者は、どこも類似したサービスを提供しています。
具体的な採択事例:ハイテクじゃなくても採択される?

議論の中で、この「領域拡大」を象徴する近年の採択事例が紹介されました。
- 【事例1:株式会社HAPROT(ハプロット)】
- テーマ: 安全持続性能の家づくり
- 概要: 医療従事者の視点を取り入れ、転倒防止などのバリアフリー性能を数値化して評価する仕組みを構築。IoTを駆使した事例ではなく、「設計思想」と「データ検証」で高齢化社会の課題解決に挑む事例です。
- 【事例2:東邦建工株式会社】
- テーマ: 信州スマートウェルネス住宅
- 概要: 寒冷地かつ共働き世帯が多い長野県の地域課題に着目。既存の普及型IoT機器(エアコン制御や見守りカメラ)をパッケージ化し、ヒートショック対策と家事負担軽減を同時に実現するモデルハウスを展開。
- 【事例3:株式会社長谷工コーポレーション】
- テーマ: 既存集合住宅のリノベーション
- 概要: 築30年の社宅をリノベーションし、睡眠の質を向上させる「スリープテック」などのIoT機器を導入して効果を検証。新築至上主義からの脱却とストック活用を示す好例です。
応募者にとっての「補助金以外」のメリット

本プロジェクトに応募・採択されるメリットについて、事務局の野中氏は「最大3億円(補助率1/2)の補助金」以外にも以下の利点があると説明しました。
- 社内説得の材料になる: 「儲かるかわからない」と反対されがちな新しい取り組みも、「国の採択事業に選ばれ」「補助金を得ながらテストマーケティングができる」という切り口も本プロジェクト活用のひとつの形です。
- 地域課題への貢献: 地場工務店などが、地域の特性に合わせた解決策を提示することで、地域密着企業としてのブランド価値が向上します。
- テストマーケティング: 本格的な商品化の前に、実証実験としてユーザーの反応やデータを収集・検証する機会が得られます。
LIVING TECH協会でも、令和4年度(2022年度)に「市場化タイプ」で採択され、1年間、「常設型スマートホームショールーム」を開設しました。(プロジェクト紹介はこちら。報告レポートはこちら)当協会は、様々な企業が提供するスマートホームサービスや製品、ソリューションなどを社会実装していくために業界横断で取り組んでいる団体ですが、実際に採択事業を踏まえた学びが多くありました。

実際にショールームがあることで、法人、一般ユーザーともに来場が多くあり、頭では知っていても初めて体験するという方も多く、ワークショップなどを通じて、スマートホームの機器同士が連動するシーン体験やをしていただき、理解を促進していただき、使ってみたいというニーズを高めることに成功しています。
また、来場者のアンケート調査からは、失敗したくないというユーザー心理が明確に存在し、『試してから導入したい』『賃貸でも使いたい』といった普及に向けた解決策の解となる声を集められたことが、次のアクションへの大きな資産になりました。法人来場が、展示企業との新たな協業きっかけになったことも副次的な効果としてありました。
次世代住宅プロジェクト向きのプロジェクト事例
ここでひとつ、当日は時間がなくご紹介できませんでしたが、当協会の複数の参画企業が関わって行われている実証実験をご紹介します。

電通と日鉄興和不動産が中心となり行っているプロジェクトで、広告代理店、消費財メーカーが、住宅提供事業者、スマートホーム事業者などとタッグを組み、入居者の生活データをもとに、新たなマーケティングモデルを、サービス化を見据えて検証するプロジェクトです。

2024年に第1回PoC、2025年に第2回PoCを実施しており、各回とも検証できたことをベースに、改善を重ねています。次世代住宅プロジェクトにおいては、芙蓉ディベロップメントという事業者が過去3回採択されていますが、採択ごとにステップアップしながら検証されていたプロジェクトで、まさにこういったケースで新しい価値創造をすることにより、不動産・住宅価値も向上させつつ、社会課題の解決にもつながっていく事例になりうるのではないでしょうか。
2026年度「次世代住宅プロジェクト」募集のポイント

最後に、2026年度(令和8年度)の事業展開について、予定されている変更点が発表されました。これから応募を検討する企業にとって非常に重要な「3つの改善点」です。
- 1.領域の明確な拡大
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「IoT必須」「新築必須」という誤解を解き、ローテク、リノベーション、賃貸、ソフト面の提案まで幅広く受け付ける方針が示されました。
- 2. 切れ目のない募集期間(通年募集へ)
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これまでは募集期間が短く、タイミングが合わないという声がありました。2026年度は、4月頃から秋頃まで、連続して応募を受け付ける体制を検討中です。これにより、事業者のタイミングに合わせてじっくりと計画を練ることが可能になります。
- 3. 「伴走型」支援の強化
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これが最大の特徴です。採択後の事務処理だけでなく、応募前の段階から「こんなアイデアは対象になるか?」「書類の書き方はこれでいいか?」といった相談に事務局が細かく対応します。 「アイデアはあるが、申請書類を作るのが大変そう」と二の足を踏んでいた中小企業やスタートアップにとっても、非常に応募しやすい環境が整います。
一色委員長(神奈川工科大学)も、「開発途中の技術であっても、住宅に導入してどうなるかをトライすること自体に価値がある。ぜひ相談してほしい」とエールを送りました。
まとめ:あなたのアイデアが「次世代のスタンダード」になる
今回のシンポジウムを通じて、国が求めているのは「最先端の技術自慢」ではなく、「生活者のリアルな悩みを解決し、暮らしを豊かにする具体的な提案」であるということです。
- IoTを使わなくてもいい。
- 新築でなくてもいい。
- 完成された技術でなくてもいい。
重要なのは、そこに「新しい価値創造(ブレイクスルー)」への種があるかどうかです。
2026年度の募集は、4月以降に開始される予定です。 「ちょっと話を聞いてみたい」「このアイデアは応募の可能性があるのか?」と思ったら、まずは気軽に事務局へご相談ください。「住宅」に紐づくという制約がひとつだけありますが、提案者は住宅提供事業者に限らず、サービス提供事業者でもメーカーでも問いません。
次世代住宅プロジェクトを活用して、日本の暮らしの課題を解決し、豊かな暮らしにしていくプロジェクトが、日本の住宅業界を変える大きな一歩になるかもしれません。

右から日経BPコンサルティング藤井氏、日経BP総研 村島氏、国土交通省 山口氏、評価委員長 一色氏、日経BP総研 安達氏、日経BP総研野中氏、LIVING TECH協会事務局長 長島
お問い合わせ・ご相談はこちら
次世代住宅プロジェクト事務局 メール: jisedai@nikkeibp.co.jp
公式サイト:「ススメ!次世代住宅」 URL: https://project.nikkeibp.co.jp/jisedaij/
※本記事は2026年2月10日開催のシンポジウム内容および配布資料に基づき作成しています。予算案の成立状況により、事業内容が変更となる場合があります。
※シンポジウムのレポートは、追って日経BP事務局より、次世代住宅プロジェクト公式ページにアップ予定です。当日の投影資料もDLできる予定ですので、わかり次第、該当URLを追記いたします。
