
LIVING TECH協会は「テクノロジーで暮らしを豊かにする」をミッションに、住宅・スマート ホーム領域を中心としたテクノロジー活用事例を取材・発信しています。一方で、テクノロジーが人の体験を変える舞台は住宅やオフィスにとどまらず、人が集まる公共空間や情報発信拠点にも着実に広がりつつあります。今回はその一例として、「空間×デジタル」の視 点から興味深い事例を取材してきましたので、本稿でご紹介します。
近年、あらゆる分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいますが、それは官公庁の広報活動も例外ではありません。今回は、テクノロジーを活用した新しい広報の形を体現している「自衛隊東京地方協力本部 渋谷募集案内所(J LOUNGE SHIBUYA)」をご紹介します。
若者文化の発信地・渋谷のど真ん中に誕生した新拠点

もともと代々木にあった事務所を、全国の地方協力本部のフラッグシップとして、若者文化の発信地であり人流の多い渋谷へと2025年11月1日に移転したのが、この「渋谷募集案内所」です。人気ドーナツ店などが入るモダンなビルの上階に位置しており、一見するとお洒落なカフェやコワーキングスペースのような洗練された外観が特徴的です。
VRや大型モニターが彩る!広報活動へのデジタル機器のフル活用



施設内に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは開放感のあるフリースペースです。広報官の執務スペースは奥に配置されているため、心理的なハードルを感じることなく、自由に、そして気軽に入りやすい空間設計となっています。自衛隊グッズと並んで、広報活動をアシストするデジタル製品が違和感なく溶け込んで来訪者を出迎えてくれます。
正面の迫力ある8面モニターとフレキシブルな空間


施設の中央には、大型のモニターが8面連結された巨大ディスプレイが鎮座しています。ここでは、渋谷募集案内所の紹介や、自衛隊の活動内容などが大画面でスタイリッシュに発信されており、来訪者の目を惹きつけます。また、モニターの下に収納されている椅子を並べれば20人以上の打ち合わせも可能で、用途によって自由にレイアウトを変えられる空間となっています。
圧倒的没入感のVRシミュレーション体験


施設の目玉とも言えるのが、VRゴーグルを使った「VR MISSION SIMULATION」です。メニューには、空対地射爆撃や、16式機動戦闘車、水陸両用車(AAV7)など、自衛隊の多様なミッションが用意されています。筆者も実際に「ブルーインパルス」の曲技飛行を体験してみましたが、仮想現実ならではのリアルな視界と迫力で、座っているだけなのに、まるで重力負荷がかかったような感覚に陥り、ワクワク感とともに自衛隊の活動を直感的に理解できるコンテンツでした。
3Dホログラムや上質なオーディオ環境



VRゴーグル以外にも、3Dホログラムディスプレイが活用されていたり、JBL of 大型パーティースピーカーが設置されていたりと、来場者に興味を持ってもらい、よりリアルに活動を知ってもらうため、様々なデジタル機器が導入されています。
「また来たい」と思わせる、多くの人が立ち寄りやすい場所へ



この施設が目指しているのは、自衛隊に対する従来のイメージをアップデートし、若者世代がSNS等を通じて「行ってみたい」「居心地がよく、また来たい」「友達を誘いたい」と思えるような、ポジティブな新しい採用・情報発信の拠点です。デジタル機器による先進性だけでなく、自然光が入る明るい空間や、ゆとりのある座席配置により、リラックスできる空間作りが徹底されています。また、施設内には各種迷彩服の試着コーナーもあり、気軽に自衛隊の雰囲気に触れることができます。


「開放感とセキュリティのバランス」を保ちながら、誰もがふらっと立ち寄りやすい親しみやすさを実現した渋谷募集案内所。テクノロジーと空間デザインを掛け合わせた、次世代の広報施設のモデルケースと言えるのではないでしょうか。
渋谷募集案内所 所長インタビュー「誰もがワクワクする空間を目指して」
最後に、この新しい拠点作りを牽引された、渋谷募集案内所の所長にお話を伺ってみました。

Q. 渋谷という場所を選ばれた背景や、フラッグシップとしての位置づけについて教えてください。
A. 元々、渋谷区内の代々木に募集案内所がありましたが、募集対象者のみなさんにとって、よりアクセスしやすく、多くの方に自衛隊を知っていただける場所を目指し渋谷駅近くへ移転しました。 渋谷は、若者文化や情報発信の中心地であると同時に、多様な人々が集まる街です。そのような場所に募集案内所を構えることで、自衛隊をより身近に感じていただきたいという思いがありました。そして令和7年11月、この新しい渋谷募集案内所、通称『SHIBUYA J LOUNGE』をオープンしました。
フラッグシップとしての位置づけについては、単なる採用案内窓口ではなく、自衛隊と社会をつなぐ情報発信の拠点と位置付けています。採用広報の新たな取り組みを積極的に展開し、他事務所の牽引役を担う、フラッグシップとしての役割を果たしていきたいと考えています。
Q. 施設を訪れる方に、どのような体験やイメージを持っていただきたいですか?
A. 一番は、「思っていた自衛隊と違った」という良い意味での驚きを持っていただきたいですね。制服や装備品を見るだけでなく、自衛隊の文化や価値観の変化、自衛隊で働く人の魅力、チームワーク、社会への貢献等を身近に感じてもらいたいと思っています。 また、就職・転職を考えている皆さんには「自衛隊も選択肢の一つとしてアリかもしれない」と感じてもらえたら嬉しいです。もちろん、募集対象年齢でない方でも歓迎です。「ちょっと涼みに入ったら自衛隊のことが好きになった、イメージが変わった」そんな場所になれたら理想ですね。
Q. そのために、現在どのような取り組みをされていますか?
A. VR体験やデジタルコンテンツの活用に加え、SNSやイベントを通じて、自衛隊をより身近に感じていただける機会を増やしています。また、説明を一方的に行うのではなく、来所者の興味や疑問に合わせて会話を重ねる双方向性を大切にしています。 最近の若い世代は、まずスマートフォンで情報収集を行います。だからこそ、『来てもらってから説明する』ではなく、『来る前から興味を持っていただく』ことも意識しています。
Q. こだわりの「空間設計」は、施設運営やスタッフの働き方にどのような変化をもたらしましたか?
A. 実は昨年2月に、このような空間作りの取組として、大田区にある大田出張所が先行してオープンしているのですが、同出張所からのフィードバックを踏まえ、来所者に自由に出入りしてもらえるカフェのようなオープンスペースと、執務スペースを明確に分けました。単に、この2つを完全に仕切るのではなく、奥からでも受付や来所者の様子を確認できるような動線を複数確保しています。おかげで、受付が立て込んでいる時には奥からすぐに応援に駆け付けられる体制ができ、スタッフ同士が協力し、来所者を孤立させない環境が整いました。
また、受付カウンターやテーブル、椅子などを可動式とすることで、通常の相談スペースから20~30名規模の説明会まで、用途に応じてフレキシブルにレイアウトの変更が可能です。 さらに、個別相談室を完備しており、プライバシーに配慮した相談にも安心して対応できる環境を整えています。設備面では、映像・音響システムを活用した情報発信に対応できる先進性を備え、新たな機器やコンテンツなど柔軟に運用できる設計としており、渋谷という街とともに、時代の変化や来所者のニーズに合わせて進化し続けられる拡張性もこの施設の大きな特徴です。 明るく開放的な空間になったことで、隊員自身も以前に増し前向きな気持ちで来所者を迎えられるようになりました。人間ですので、職場の雰囲気は大事ですね(笑)。
Q. VRなどのデジタル機器の活用は、広報官と来所者とのコミュニケーションにどのような効果を生んでいますか?
A. VRは単なる体験機器ではなく、会話のきっかけ作りに大きく役立っています。例えば「空挺降下って本当に怖いんですか?」とか、「戦車に乗ってる感覚ってこんな感じなのですね」といった自然な会話が生まれます。パンフレットだけでは伝わりにくい自衛隊の仕事や現場の雰囲気『ニアリアル』を体感していただけるため、その後の説明も理解が深まります。私たちも説明するというより、一緒に体験を共有している感覚ですね。 加えて、大型マルチビジョンなどの映像・音響設備を活用することで、災害派遣や訓練映像など自衛隊の活動をより臨場感をもってご覧いただけます。言葉だけでは伝えきれない自衛隊の魅力を、映像を通じて体感していただけることも、この施設ならではの特徴です。
Q. 今後の課題や、立地ならではのデジタル活用法はありますか?
A. 渋谷は常に新しい文化や技術が生まれる街です。その環境を活かし、SNSや動画、XRなどのデジタル技術を積極的に取り入れ、今後はLive配信にチャレンジし自衛隊の魅力をより身近に発信していきたいと考えています。 一方で、アクセスは良いものの、3階という立地上、通りから施設に気づいていただきにくいという課題があります。そのため、デジタルサイネージやSNS等による口コミなどを活用し、空間の制約をデジタルの力で補う工夫を進めています。 まだまだ私たちも挑戦の途中です。スタートアップ企業のような発想で、失敗を恐れず新しいアイデアに挑戦しながら、より多くの方に気軽に足を運んでいただける場所へと進化させていきたいと考えています。 そして、どれだけデジタル化が進んでも最後は人と人とのつながりです。「この人に相談してよかった」と感じていただける信頼される広報を、これからも大切にしていきたいと思います。
インタビューを終えて
近年、自衛隊が強化を進める「デジタルの活用」は、サイバー領域やドローン(無人アセット)だけでなく、こうした広報の現場においても大きな存在感を放っています。しかしながら、最新のデジタル機器を存分に駆使した空間でありながら、その最終的な目的はあくまで「来訪者とのコミュニケーションを深めるため」であり、「最後は人とのつながり」という所長の言葉が非常に印象的でした。スタートアップ企業のように柔軟な発想で挑戦を続ける渋谷募集案内所の姿勢は、これからの広報活動や空間デザインの大きなヒントになりそうです。
渋谷にお越しの際は、ぜひこの「デジタルの力で進化した広報スペース」を体験してみてください。VRや大型マルチディスプレイ、3Dホログラム、上質なオーディオといった機器構成は、本協会が日頃取材しているスマートホームや住宅の体験設計とも重なる発想です。
LIVING TECH協会では、住宅・スマートホーム領域はもちろん、こうした「空間×デジタル」の最前線 についても、業界横断の視点から継続的にレポートしてまいります。
自衛隊東京地方協力本部 渋谷募集案内所
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1丁目8-3 3F

